「シェイクスピア空間」社会学者 見田 宗介
・・・子どものころに読んだシェイクスピア文学の数々について、大人になるまでに大部分は忘れてしまった。残っているのは、全体としてのあのシェイクスピア的世界の活力の「輝度」の感覚みたいなものだけだ。
主役だけでなく、悪役も脇役も、どんな端役も一人ひとり固有の「真実」を持って息づき、立ち渉っているあのシェイクスピア世界の重層する面白さ。
それがわたしに残してくれたのは、あとになって、情動と論理、ニヒリズムと素朴、体制派と革命派と超越派、近代主義と反近代主義、矛盾するさまざまの自己がそれぞれの真実をもって立ち上がり、闘争し、呼応し、互いに包摂することになる劇場空間みたいなものとして、わたしを構成してくれたことにあると思う。
2月4日朝日新聞夕刊 文化 「私の収穫」より抜粋
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